だけど彼女が言うように、小野さんが子供だからと言って彼女の気持ちを雑に扱ってはいけない。彼女と上手に接することが大人としても責任なんだろう。

でも今はどうだ。小野さんの言葉に動揺させられている自分がいる。
これじゃ自分が大人だなんて名乗ることもできない。


「こ、心得ておきます」

「そうしてください。じゃあ私もう仕事終わりなんで、失礼します」

「お疲れ様……」


花宮さんが事務室から出ていった瞬間に緊張の糸が途切れたように脱力した息が口から洩れる。
ゆっくりと椅子の背もたれに体重をかけるとパイプがきしむ音が一人の部屋に響き渡った。

色々考えることはあるけれど、向こうがどう出るか分からない今、こちら側が勝手に警戒するというのも変な話だ。
彼女の性格上、大勢の他人を巻き込んで問題を起こすタイプではないし、とりあえず様子見で大丈夫だろう。

ただ、一つ気になるのはなぜ小野さんにだけ意図を分かりやすく漏らしているのかだ。
先程も言ったが、小野さんは聡い子だ。きっと今もなにかに勘付いているからあのような不安そうな表情を浮かべていたのだろう。