「そういえばあの名刺、本当に彼に渡したの?」

「……わ、渡しました」


嘘じゃない。渡したことは事実だ。
そのことを告げると品定めをしているかのような彼女の視線がふとピリつくのを感じた。


「そう、じゃあ連絡を寄こしてこないってことはこっちを拒否してるってことね」

「え……」


そう彼女が小さく漏らした言葉に少し体の力が抜けるのを感じた。


「(店長、本当に連絡しなかったんだ……)」


彼が約束を破る人間ではないと知ってはいたが、それが事実であることに酷く安堵していた。

注文を入力し終えた私は「少々お待ちください」と常套句を告げてその場をあとにする。
やっと戻れた。どうしてだかあの人の傍にいると息が詰まる思いがして苦しくなる。

彼女はまた店長に会いに来たんだろうか。店長から連絡を待っているということは、あの人は彼の連絡先を知らないようだ。

花宮さんはまだ忙しくしている。彼女のことだから状況を察してくれるだろうけれど、これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。