「……小野さん?」

「ごめんなさい、私……」


こんなこと、私が言ったって仕方がないって分かっている。あの女性に連絡するかしないかは店長が決めることだから。
それでもあの人に会ったらなにかが変わってしまうんじゃないかって。私の知らない店長になってしまうじゃないかって。そう、心配になってしまう。


「……」


一人思い詰めた様子でいる私のことを見つめた店長は暫く黙り込んだのち、静かに口を開いた。


「連絡、しない方がいいかな?」

「……それって私が決めていいんですか?」

「うーん、俺は別にしなくてもいいかなって思っていたりするんだけどね」


店長がそう口にしながら軽く微笑んだ。それだけで胸中に立ち込めていた厚い雲が吹き飛ばされたように気持ちが晴れていくのを感じた。
彼は私が連絡してほしくないことを分かっていたのかもしれない。だからそう言って私を安心させようとしている。

きっと本当はあの女性と会うべきなんだ。だけどそう言ってくれた彼を嬉しく思う気持ちを隠せないでいる。


「……しなくていいのなら」

「うん、じゃあ連絡しない。会う予定もないよ」

「……」


こういうとき、店長は私よりずっと大人なんだなって思い知らされる。