「本当に無理しない方がいい。今家に連絡して家族の方に迎えに来てもらうから……」

「っ……それは駄目です!」

「……小野さん?」


家族のことに触れられ、咄嗟に大声を出してしまった。驚いた表情の店長を見て、その場の空気を換えなくてはと焦った私は……

私は、背中に隠していた名刺を取り出して彼に見せた。


「これ、さっき店の前で渡されて……店長に見せてほしいって……」

「名刺?」


彼が不思議そうな表情を浮かべて私が差し出した名刺を受け取る。
見たくないと思いつつも、彼の様子を観察していると名刺に書かれている名前を見た瞬間から彼の表情が曇っていくのが見えた。

あぁ、やっぱり渡さなきゃよかった。こんなふうに動揺する店長のことを見たくなかった。


「これ……渡してきた人はまだいるの?」

「えっと、これを見せたら分かるだろうってどこかに行っちゃって……」

「……そっか」


ありがとう、と何事もなかったように名刺をポケットに直した店長。
先程のような動揺はなくなったけれど、二人の関係についてつついてみたい気持ちと知りたくない気持ちが胸の中で矛盾する。


「突然驚いたでしょ。気にしないでいいから。俺からまた連絡入れておくよ」

「っ、連絡するんですか?」

「え?」


仕事が終わった後、店長はあの女性と会うのだろうか。