裏口から店内に入った私はだれにも見られないようにと更衣室へと向かう。
「あれ、小野さんおはよう。どうしたの、歩きにくそうだけど」
しかし、こういうときに限って会いたくない人に会ってしまう。
「て、店長……」
「ん?」
突然現れた店長に手に持っていた名刺を背中に隠す。そんな私の行動に店長は首を傾げた。
どうして会いたくないときに会ってしまうんだろう。会いたいときは私が会いに行かないといけないのに。
「(名刺、どうしたら……)」
この名刺を見たら、店長はどういう顔をするんだろう。あの人のことを思い出すのかな。
こんなに胸がざわつくのは店長があの女の人と会ってほしくないからだ。
だけど……
「大丈夫? 具合悪そうだけど。無理せず帰った方が……」
「あ、違くて……その……」
会わせたくない、その気持ち以上に。なんだかズルをしているような気分で気持ちが悪い。
この名刺を渡さなければ彼女が店に来たことを店長に知られずに済む。だけどそれをすると私は間違ったことをしているようで、店長のことをまっすぐに見られなくなってしまう。
真っ当な人間として、彼の前に立っていていいのか分からなくなってしまう。