「あー、そこに触れちゃうのか」

「ずっとバイトしてた瑞希からしたら理由は想像できないだろうね」

「……?」


二人はこんなにも教室のムードが重たい理由を知っているらしい。
私が見当つかず頭を悩ませていると色葉が「仕方がないなあ」と、


「夏ってさ、付き合っている男女がいるなら距離を縮めるのに持ってこいの季節でしょ? だからよ」

「だから? 仲良くなるんじゃないの?」

「距離が縮まったら相手の嫌なところだって見えてくる。恋は障害がつきものなの」


つまり夏休みにデートなどを繰り返していた男女がこの期間で素性を知り、それが喧嘩だったり破局の原因になったということだろうか。


「それで破局したカップルが学校に来たら、夏休みで距離を近づけてさらにラブラブになってるほかのカップルを見て」

「嫉妬したり恨んだり、こんなにも天国と地獄が綺麗に表れている状況も珍しいものね」


なるほど、それで教室の空気が悪いのか。確かにちゃんと見たら教室の隅っこでいちゃついている幸せそうなカップルの姿も見受けられる。
付き合った後も喧嘩したり別れたり、結構大変なんだなあ。


「そう思うと瑞希って幸せだね」

「え、なんで?」

「店長って今のところライバルとかもいないんでしょ? だったら恋のいざこざとかなくていいじゃん」

「いざこざがないどころか相手にもされないでしょ」