「あの、本当にお騒がせしました」

「いや、こちらこそ。俺たちが勝手に話を進めていたから言い出しにくくもなっていたでしょうし」

「そ、それはそうなんですけど……」


高野先輩はどれだけ気遣い屋さんなんだろう。全面的に私が悪いはずなのに、こんな私のフォローにも回ってくれて。
瑞希ちゃんの次にお世話になっていると言っても過言ではない。


「でもよかったです。悩んでいたようにも見えたので、宇佐美さんの答えが出たみたいで安心しました」

「私の、答え……」


出た、と言ってもいいのかな。だけど目標はできた。今はその目標に向かって努力するのみだ。
頑張ります、と自分にも誓うように呟くと弟さんが後ろから顔を出し、高野兄弟が私の前で揃ってしまった。


「おっ、そういえば蒼、お前雫がいなくなるんじゃないかって落ち込んでたよな?」

「え?」

「は?」


弟さんの言葉に同時に驚きの声が飛び出る。私がいなくなると思って落ち込んでいた? 誰が?


「紅、ちょっと黙ろうか。そういや夏休みの宿題が終わってないようだけど、こんなところでいていいの?」

「な、なんで俺が宿題やってないって知ってんだよ!?」

「紅のことならなんでも知ってるよ」


にこやかな表情を浮かべながらも口調は冷たい高野先輩に、二人の様子を眺めていた私の背筋も凍った。
何事もなかったかのように私の前から去っていく二人。その背中を見送りながら先ほどの会話に出た言葉を頭のなかで反復させる。


「(まさかね……)」


このお店で私の成長のほかになにかが生まれる、なんてことはない……はず?