「というわけで、しーちゃん辞めません!!」


後日、みなさんの前でそう説明してくれた瑞希ちゃんの隣で私は深々と頭を下げた。


「お騒がせして本当にすみません」


絶対に怒られる、そう覚悟していたけれどみなさんは比較的穏やかで私を責める人は一人もいなかった。


「ってことは瑞希が早とちりしていただけかよ」

「ほ、本当に辞めるって聞いてたんですからね!?」

「宇佐美に今辞められるとフロア足りなくなるし、むしろよかっただろ」


瑞希ちゃんと話す弟の方の高野先輩と桐谷先輩の言葉に安堵する。最初は見た目から怖い人だと思っていたけれど、瑞希ちゃんとのやりとりを見ていると優しい人なのだと思う。
それどころか、このお店に優しくない人が存在していなくて驚きである。


「じゃああの色紙どうするんだよ……」

「あ、あれはー……しーちゃん、いる?」

「え、えーと……困るかも……」


私のためにメッセージを集ってくれたのは嬉しいけれど、私は辞めることを想定して書かれた文章をどう処理していいか分からない。
だけどみなさんが参加してくれたことは嬉しくて、改めてその場にいる人たちに感謝の気持ちを伝えた。


「ということでみんな仕事に戻ろうか。宇佐美さん、あとで再契約の話があるから事務の方寄ってもらえるかな?」

「は、はい!」


店長の一言でその場は解散となり、それぞれ自身の仕事へと戻る。私は店長に言われた通り、改めて雇用の契約を組むために事務室に向かうことにした。

その途中、


「宇佐美さん……」

「あ、高野先輩……」


お兄さんの方の高野先輩と鉢合わせた私は本能的に頭を下げて彼に謝罪をしていた。