「今日も店長のために一生懸命働きますね！」

「いや、自分のために働いてね？」

「いいえ！ 全て店長に捧げます！ なのでエネルギーチャージさせてください！」

「ちょ、ちょっと待って！」


隙を見てぎゅっと抱き着いてみると不意打ちだったからか、思いかけず私の腕が彼の脇腹を掠めた。
すると「うわぁああ！」と情けない彼の声がスタッフルーム内に響くと共に、彼が部屋の端っこまで尋常ではない速さで移動し私と距離を開けた。


「あ、危ない！　危なかったよ！　今誰かに見られていたら俺は警察に通報されてたよ！？」

「もう見てますけど」

「っ、花宮さん！？」


不意に聞こえてきた第三者の声に、店長と共に視線を部屋の入口へと向けるとそこには店のフロア担当の制服を着た背の高い女性が経っていた。
スタッフルームの扉に凭れて珈琲を啜っていた女性はこのお店のバイトチーフの花宮さん。大学四回生の私のバイトの先輩だ。

それにしてもいつのまにスタッフルームに入ってきていたんだろう。店長のことに集中していて全く気が付かなかった。
花宮さんは珈琲を一口含むと憐れむような視線を今でも死にそうな店長へと向けた。


「店長、まさか店の店員にセクハラするんて……失望しました」

「花宮さんには俺が襲ってるように見えるの！？ どうして！？」

「もう店長ったら、やっぱり私のこと……」

「いやいや、どうして小野さんも勘違いしてるの？」