だがしかし、そのタイミングはなかなか訪れなかった。
その理由は……


「ねえねえ、しーちゃん。しーちゃんの好きな食べ物ってなに?」

「え? どうして?」

「え!? あ、あー、なんだろう。その、アレルギーとかあったら困るし、うん!」


質問の答えになっていない。そんな瑞希ちゃんの言葉を聞きながら頭では違うことを考えていた。


「(送別会で出す料理についてリサーチしてるんだ……)」


このように瑞希ちゃんは働いているときの少しの隙間時間を活用しいて私に探りを入れてきた。
その質問を受けるたびにどうしても辞めないことを言いだしづらくなる。もちろん引き延ばせば伸ばすほど言い出しづらくなってしまうのは分かっているのだけど。



「(私、この子の悲しい顔見たくないんだなあ……)」


そう思える友達が私にできるなんて、昔の私からは信じられないだろう。

瑞希ちゃんとは学校のクラスが違うため、アルバイトのことがなかったらきっと仲良くならなかった。
彼女は私と違って明るくて誰からも好かれる性格であり、私のとって憧れのような人だった。

そんな彼女が私が辞めることを「寂しい」と感じてくれている。それだけで十分じゃないか。


「(今日、絶対に言おう……)」


これ以上この子に悲しい思いをさせないためにも。