「……」


夕食を終え、お風呂に入った私は自室で明日の授業の予習を行う。通っている学校は県内でも有名な進学校であり、こうして予習をしていかなければ授業についていけなくなる。
それなのに、教科書を見ながらノートに文字を書き綴る中、私の頭は別のことで埋め尽くされていた。

バイトを続けたら勉強する時間がなくなって、成績が悪くなるかもしれない。瑞希ちゃんは頭がいいから、いつもシフトに入っているのに定期考査では毎回学年上位にいる。
私は要領が悪いから、学校が始まってバイトと勉学を両立できるか心配だ。もしかしたら両親もその点で反対をするかもしれない。


「(この先、私がどうなっていきたいのか……)」


私は自分の声が嫌いだ、そう思っている自分のことが嫌いだ。
引っ込み思案なのを声のせいにして、苦手なものから逃げている自分のことが嫌いだ。

ノートにペンを走らせるのを止め、視線を机の隣にある棚へ向ける。そこには小学生のころの卒業アルバムが飾られていた。
おもむろにそれを手に取り、ページを開く。卒業アルバムの最後のページに唯一の親友だった女の子から手書きメッセージが載せられていた。

彼女とは中学受験をして、別々の学校に通うことになった。私が男の子から虐められていたときに幾度も助けてくれた勇敢な女の子。
そんな彼女に最後にもらったメッセージを指でなぞるとその内容をゆっくりと口にする。


『雫の……その声が羨ましかった……』


その女の子はボーイッシュで、声も低く、男勝りな性格だった。そんな彼女の本音に触れたとき、私はどうしようもない罪悪感で埋め尽くされた。
私が嫌っているこの声は、あの子にとっては羨ましいと思うものだった。そんな声を私は誇りに思えなかった。

その子は私の隣にいて、いつもどんな気持ちでいたんだろう。


「(変わりたい……)」


自分のことが好きだと、心の底から思えるような人になりたい。
変わりたいと思うことを恥ずかしいことだと思いたくない。

私はアルバムを閉じると棚に戻し、自室を出て両親がリビングへ向かった。