帰宅するなり心配顔の兄が玄関先で私のことを待っていたのか、家に帰ってきた私のもとへ走り寄ってきた。
「おかえり雫。今日も迎えにいかなくて大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ、いつも一人で帰ってきてるでしょ」
「そうだけど心配でさ……」
前にバイト先の人たちに迷惑をかけたのに、未だに私のバイトのことについて追及してくる。前々から過保護な兄であったが、私がバイトを始めてからさらに過保護が加速したように思える。
「ほら、お前のバイト先って男も多いだろ? 言い寄られていないか気が気じゃなくて……」
「……そんな人たちじゃないから」
普段のように兄を軽くあしらいながらリビングへ向かうと台所に立っていた母が顔を出してきた。
「雫おかえりなさい。夕ご飯作っておいたから、あっためて食べなさいね」
「うん、ありがとうお母さん。手洗ってくるね」
バイトがある日は帰宅してから家族とは別の時間帯に夕食を取る。今までは家族揃ってご飯を食べるのが当たり前だと思っていたから、最初のことは寂しく感じていたけど今では一人で食べるのも慣れた。
温め直したハンバーグを口に運んでいると、すでに寝る準備を済ませた母が私の前の席に座った。
「雫、もう少しでアルバイトも終わりね」
「っ、うん……」
「特にうち貧しいってわけじゃないから、バイト始めたいって言われたときはびっくりしたけど。でも無事に最後まで続きそうでよかったわね」
「……」
両親にはバイトを始めた本当の理由を話していない。だから二人とも夏休みの小遣い稼ぎだと思っていて、休みが終われば当然バイトを辞めると思っているのだろう。
そう断定されればされるほど、続けようか迷っていることを話しづらくなる。
「(バイトを続けることによって、家族に心配もかける……)」
夕ご飯を一緒に食べる機会は少なくなるし、休日だって一緒に過ごせない日も多くなる。
それは確かに寂しいことだけど、家族であれば分かってもらえるはず。
だから本当に、あとは私の勇気だけなんだ。