こんな顔、高野先輩のファンが見たら卒倒してしまう。そしてその怒りはもちろん私へ向くはずだ。
むしろこの瞬間でさえ、高野先輩のファンが隠れて見ているかもしれない。突然周りを警戒し始めた私に彼が不思議そうに首を傾げた。


「どうしました?」

「い、いえ、急に命の危険を感じたというか。気にしないでください」

「……ふっ」

「え?」


不意に笑い声が聞こえたと思ったら、高野先輩が挙動不審な私のことを見て吹き出すように笑っていた。それも普段のような目を細める綺麗な微笑ではなく、眉を下げ、顔をしわくちゃにするような幼い笑い方で。
こんな笑い方もする人なんだ。そう彼の表情に見惚れていると我に返った高野先輩が自分の口元を手で覆った。


「す、すみません。宇佐美さんのことを笑ったわけじゃなくて」

「……いえ、むしろ笑ってください。自分の行動が変なことは自覚しているので」


あぁ、せっかくバイトに馴染めてきたと思ったのに。これで高野先輩の目には私がおかしい人って認識で映るんだろうな。
まあ、もうバイトを辞めるつもりだからどう映っても気にならないけど。


「……ネガティブだなぁ」

「っ……」


それでも、ここで培ったことや経験したことはバイトを辞めても忘れない。
なにもできない私のことを悪く言わず、見守ってくれた人たちのことはこの先もずっと覚えているだろう。

私に微笑みかけてくれた高野先輩の姿に、これまで幾度も助けられてきたことを思い出した。
この人たちに私が最後にできることってなんだろうか。


「(やっぱり私は……)」


ここで、立ち止まってはいられない。