バイト先には三人の男性の先輩がいる。厨房担当の桐谷先輩とフロアスタッフで双子の高野先輩。
その三人のなかだとお兄さんの方の高野先輩はまだ話しかけやすい方だった。

小学生の頃、声が変だとクラスの男子に虐められていた。それで異性が怖くなり、中学は男の子の存在すら避けていた。高校も女子高に通うという選択肢があったけれど、地元で公立の女子高がなくて諦めてしまった。


「宇佐美さんと小野さんはクラスも一緒なんですか?」

「く、クラスは別です……」

「流谷って頭いいのに凄いですよね」


駅までの道、苦にならない程度に会話をしてくれる高野先輩の心遣いに助けられた。

高野先輩は私の年上だけど、なぜか私に対して敬語を使う。それは瑞希ちゃんも一緒だった。
理由を彼女に聞いたとき、「癖なんじゃないか」と話していたけれど。不思議な癖だなあ。

だけどそのおかげで圧を感じずに会話ができているからありがたいのだけど。


「(改めてだけど、恐ろしいくらい顔が整っているなあ……)」


彼の話に耳を傾けながらその横顔を盗み見る。形のいい目にすっと通った鼻筋、薄目な唇に白い肌。完璧といっていいパーツが完璧な位置、角度に存在している。
桐谷先輩も格好いい部類に入るだろうけど、彼は独特の雰囲気というか、オーラが怖くて近付きづらい。高野先輩は正統派というか、十人の人に聞いたら十人がイケメンというんじゃないだろうか。

普段から大変なくらいモテているみたいだし、本当に住む世界が違うな。


「……さみさん、宇佐美さん?」

「っ……すみません!」


しまった、完全に自分の世界に入っていて彼の話を聞いていなかった。わざわざ私の為に会話を続けてくれていたのに。
彼の顔が曇っていくのが見えてさっと血の気が引いていった。


「すみません、俺一人話しちゃって。うるさかったですよね」

「そそそ、そんなことないですよ。むしろ私のようなミジンコとの会話に思考を割かせてしまってすみません!」

「ミジンコ?」