「そういえば小野に聞いた。今月でバイトやめるんだってね」

「は、はい。お世話になりました」

「小野のおかげもあると思うけど馴染むの早かったし、もっと長くいるものだと思ってたけど」


残念ね、と淡々と告げる彼女に「本当かな」と疑問を抱いてしまう。花宮さんが悪い人ではないと知っていても、表情から感情が読み取れないからよく分からないな。
お言葉に甘えて早めに仕事を上がると帰る準備をする。思えば最初のころは瑞希ちゃんとシフトが一緒じゃないと不安でいっぱいだったけど、今では問題なく働けている。


「(私、本当に成長したんだな……)」


コンプレックスが直ったまではいかなくても、以前よりかは息がしやすくなった。
それなのにどうしてこんなにも複雑なんだろう。

着替えて更衣室を出ると丁度帰るタイミングだったのか、制服姿の高野先輩と鉢合わせした。


「(あれは……)」


ピアスをしていない、ということはお兄さんの方か。


「あ、宇佐美さんお疲れ様。今帰り?」

「お、お疲れ様です」


さすがに一対一だとまだ緊張するな。そのせいで一緒のシフトだったのに仕事中は一言も話していなかったし。
彼は手に持っていたスマホをジャケットのポケットに戻すと視線を窓の外へと向ける。


「もう外も暗いですし一緒に帰りましょうか。駅まで送ります」

「え……」

「ん?」


さらりと言われた言葉に固まる。一緒に帰る? 私と高野先輩が?
行きましょうと休憩室をあとにする彼を私は思考が追いつかぬまま追いかけた。