元々アルバイトは両親に反対されていた。夏休み限定という約束で始めることを許してもらったからその約束通り、今月でこの店を去らなければいけない。
そのことを店長に相談したとき、彼も「残念だな」と悲しがってくれた。


『初めのころはどうなるかと思ったけど、宇佐美さん予想以上に頑張ってくれたしできたらこの先もって思ったんだけど……だけどご両親との約束なら仕方がないね』


そう、これは最初から決まっていたこと。だからこの店を去ることなんてずっと前から心の準備はできていたつもりだった。

つもりだった、のに。


「(寂しいな……)」


少しだけ未練を感じてる、なんて。




本当はなんでもよかったんだ。あの日、校舎の廊下に貼られていたアルバイト募集のポスターを見たときだって。
今の環境から抜け出せるならなんでもよかった。だけど自分から行動を起こす自信がなかった。だからなにかきっかけがほしかった。

親に相談するのは怖かった。これまでの私のことだけを評価して、反対されると思ったから。
一か月、これが二人から言い渡された私のタイムリミットだった。

期待なんてしていなかった、私も。自分はどうやっても変わらないんだって、駄目なやつなんだって思い込んでいた。
だから今の自分に少しびっくりしている。だから欲が出てしまったのかな。

もう少し、ここにいたいって。


「ありがとうございましたー」


店を出ていくお客様を見送ると「雫」と肩を叩かれた。


「お疲れ様、少し早いけどもう上がっていいって店長が」

「花宮さん、ありがとうございます」


夏休みの半分が過ぎた。宿題は図書感想文だけが手付かずでほかは全部終わっている。
最初のころはしんどいと感じていたアルバイトも、今では楽しみになっていた。