「しー、しー! 静かにしてください!」

「おい、お前まだ着替えてないのかよ。今日忙しんだぞ、早くしろよ」

「いや、私は今日シフトに入ってないので」

「は? じゃあなんでここにいるんだ」


うぅ、紅先輩は私と畠山さんの件を知らないだろうし、一から説明するの面倒くさいなあ。
紅先輩が今日シフトに入っているって知っていたら、今日を決行日に選ばなかったのに。

ひとまず適当なことを言って納得させ、この場から離れないと。


「こ、紅先輩、これは……」


そう口を開いたとき、また背後で物音がする。それが足音だと気付いた時には時すでに遅し。


「お、小野さん!?」


早くも店長に見つかってしまった。いないはずの私を見つけた店長の表情はまるでお化けを見たような真っ青で、それはそれで私に失礼なのではないだろうか。


「なんで小野さんここにいるの? 今日ってシフト入ってなかったよね?」

「シフトにないのに来ちゃ駄目ですか?」

「駄目というか、なんで来たっていうか」

「そ、れは……」


理由を言ったところで帰されはしないだろうけど、畠山さんに会いに来たって正直に話すのもな。
店長に会いに来た、と言えば騙されてくれそうな気もするし、このまま強引に押し通してもいいかもしれない。

と、


「あ、畠山さんお疲れ様です」

「!?」


廊下の奥の方で花宮さんの声がする。彼女が呼んだ名前は間違いなく私は一番会いたい人のものだった。
その声に反応したのは私だけじゃなく店長もだった。だが反射神経の関係で私の方が早く脚を花宮さんの方へと向けた。


「小野さん!?」


私の名前を呼ぶ店長の声を振り切って廊下を走る。この角を曲がったところに畠山さんがいる。
彼女がどんな大人な女性であって、店長のことをよく理解していたとしても、今ここにいる人間で店長のことを一番に好きなのは私なのだと示す必要がある。

どんな人が出てきても絶対に屈さないよう、気持ちを強く持って私はその角を回った。


「花宮さん! そこに畠山さんが……」


いらっしゃりますか、と角を飛び出した私の視界に入ってきたのは驚いた表情をしている花宮さんと……