と、


「ただいまー……あれ、桐谷くんと小野さんそこでなにして……」


不意に聞こえてきた声に顔を向けるとどこかから帰ってきた店長が私たち二人のことを見つめて固まっていた。
そしてしばらくしてなにかを察すると顔を赤くしてオーバーなリアクションと共に後ろに下がった。


「ご、ごごご、ごめん!!」

「いや店長、それはないです。マジでないです」

「え、でも顔近かったよね!?」

「これは小野の顔を観察していただけです」


そう言って私から距離を取った桐谷先輩。私との関係を他人に誤解されるのが本当に嫌なようだ。
というか店長も私が店長のことを好きって知っているくせに勘違いするとはなにごとか!


「店長!」


私は桐谷先輩から離れると戸惑って立ち尽くしている店長の元へ脚を進める。
ずっと悩んでいたって仕方がない。本人のことは本人に聞くのが一番早い。

それが私の望む答えじゃなかったとしても。


「店長、畠山さんのことなんですけど」

「は、畠山さん?」


私の口からその名前が出たことに驚いている店長の表情。そんな些細な変化ですら私の胸をざわつかせる。


「どうして、どうして私と畠山さんを会わせないようにするんですか?」

「っ……なんでそのことを小野さんが」

「やっぱりそうなんですね……」


想像だったものが彼の言葉で事実になる。私と畠山さんを会わせたくないということは、つまり店長たちの間に私に知られたくないなにかがあるということだ。
だけど私は生半可な気持ちで店長のことを好きでいるわけではない。年齢が離れているということも、価値観が異なることも、全部踏まえたうえで彼のことが好きなのだ。

だから畠山さんが店長にしていることも私にだってできること。
私はまだ子供かもしれないけれど、できないことは一つもないのだ。


「店長、私に畠山さんと会わせてください!」