「ロッカーに閉まってあった店長のしわくちゃなシャツのアイロンかけたり、栄養が偏った店長の体を労わって弁当を作ってきたり。友人というよりかは保護者のような感じだな」

「そ、それって……」


それって彼女がするようなことじゃないか! というか花宮さんに聞いていたよりも距離が近い。
これは桐谷先輩が二人のことをよく見ているからだとも言える。

や、やっぱり二人は付き合って……もしかして今もなにか関係が……!?


「そういえばあの人が持ってきた土産が休憩室に……小野?」

「そんなこと……店長に限ってそんなこと……」


店長はそんな相手がいることを黙ってずっと私に接していたのだろうか。
私がどれだけ好きと伝えても靡かなかったのはもうすでに相手がいたから……

なにも知らずに浮かれていた私は馬鹿みたいじゃないか。


「わ、私だってシャツにアイロンをかけるくらいならできますし、栄養満点の弁当だって練習すれば毎日作れます!」

「……小野、お前なんか勘違いしていないか?」

「そうですよ、私は勘違い女ですよー!」

「いや、そうじゃなくて」


桐谷先輩に泣きつく私を彼は迷惑そうにしながらも受け止めてくれた。
信じられない、信じたくない。店長にそういう存在がいることを。だって彼は私に「今は恋愛する気はない」とハッキリと教えてくれた。

だからいつか彼が誰かと恋愛するとき、その相手は彼のことを振り向かせた自分だと信じて疑わなかった。ほかの人である可能性を考えていなかった。否、考えないようにしていたのかもしれない。


「小野、顔酷いぞ。フロアに出せる顔じゃない」

「だ、だってえ……」

「……」


桐谷先輩は私の顔を覗き込む。すると端正な彼の顔が視界に入った。
流石の面食いでも至近距離で彼の顔を見つめてしまうとあまりの迫力に息を吞んでしまう。

涙目で酷い私の顔と並ぶと顔面偏差値の差が顕著に出るだろう。