「ありがとうございます、花宮さん!」


質問に答えてくれた花宮さんにお礼を告げると厨房にいるだろう桐谷先輩の元へと向かう。
すると丁度厨房から出てきた彼と鉢合わせしたので「桐谷先輩!」と声をかけると彼は私の顔を見た途端、心底嫌そうな顔を浮かべた。


「なに、今から休憩なんだけど」

「あの、畠山さんのことで質問があって」

「……」


なんで、と脚を止めてくれた桐谷先輩。相変わらず私のことを見下ろしてくる視線は絶対零度並みに冷たい。


「花宮さんが桐谷先輩は畠山さんになついてるからって」

「は、そんなことないし。てか、アイツの言うことなんでも信じてるとあとで痛い目見るぞ」

「えー、でも花宮さんの話って説得力があるし」


花宮さんと桐谷先輩はこのお店のアルバイトのなかでも古株で、入ってきたばかりの私が知らないこの店のことをよく知っている。
昔から一緒に働いているからお互いのことをよく知っているのかもしれないけれど、この二人の仲はお世辞にもいいとは言えない。

見た目だけならお似合いの二人なんだけどな。


「……まあ、この店の中だったらよく話す方かもな」

「そうなんですか?」

「あの人、うちの店の中でも常識人だし」


俺の次に、と付け足すように言った彼に私は「はあ……」と息を漏らす。
本音を言うと桐谷先輩も私から見るとあまり常識人には見えないんだけど。でもこれを本人に言うと凄く怒られる未来が見える。

しかし花宮さんと桐谷先輩の口から語られる畠山さんという女性は、とてもしっかりした大人のようだ。
でもそういう女性の方が裏はしたたかな場合もあるし……


「あと人生経験豊富だか知らないけど店長よりは相談もしやすいな」

「畠山さんと店長の仲はいいんでしょうか?」

「友達でもないし仕事仲間だから普通だろ。歳も近いし仲が悪そうに見えたことはないけど。あと、基本店長が頼りないせいでよく世話を焼いているところはよく見る」

「世話ですか?」


というか本当に桐谷先輩の中でも店長の評価って低いんだな。これをもし店長が聞いていたら泣いてしまうんじゃないだろうか。