「なんか、店長元気ないですね」

「あー、まあ畠山さんが戻ってくるってなったらね。分からなくもないけど」

「……さっきから名前が出てるその人って、このお店の人ですか?」

「え?」


私の問いかけにこちらを振り返った花宮さんはぽんっと胸の前で両手を合わせた。


「そっか、小野は畠山さんに会ったことないのか」

「えっと……だからそのはたけ……ナントカさんっていうのは一体……」

「まあ、ここで働いていたらいつかは顔合わせるでしょう」


花宮さんはそう言って一息付くと、窓の外を見て「あー」と声を漏らす。


「うちの店のマネージャーさんなのよ」


それから不思議なことに、私のバイトのシフトが減らされるようになった。




「……」


口にくわえていたストローからコップに入った炭酸飲料を吸い込む。するとジュッという音と共にストローの先が氷にぶつかった。
視界に映るテレビのカラフルな映像、白文字で書かれた歌の歌詞。それが隣に座っている人に歌われていくのをなんとか頭で理解する。


「ねえ、その顔やめてよ。目に力が入ってて怖いんだって」

「へ、私?」

「瑞希以外だれがいるの」


手にしていたタッチパネルをテーブルの上に置いた彩葉が呆れた目でこちらを見る。
そんな顔をしていただろうかとストローから口を離すと、含んでいた部分が歯型で押しつぶされていることに気が付いた。


「ちょっとー、私の歌聞いてた?」

「ご、ごめん光里。だけどボーッとしていたわけじゃなくて考え事をしてて」

「それってボーッとしているのと見た目は変わらないからね」


夏休みも中盤に差し掛かったころ、私は彩葉と光里のいつもの二人でカラオケに来ていた。
二人からカラオケに誘われて参加の返事をしたところ、二人には大いに驚かれた。


「てっきり夏休みはずっとバイトしているもんだと思ってたからねー。意外と暇してるんだ」

「暇っていうか、家にいてもすることがないだけで」

「宿題は?」

「初めの一週間で全部終わっちゃった」