「え！？ じゃあ全部じゃないですか！？」


驚く小野さんは開いた口が塞がらないのか、あんぐりとした表情で俺のことを見上げる。


「ていうか蒼先輩も全部知ってたってことですよね？ 紅先輩が本当のことを話しても二人が別れないって分かってたってことですよね！？」

「んー、そうなりますね」

「めっちゃいい笑顔で言ってますけど！」


確かに小野さんから見れば全てを知っている俺が全てを伝えるのが一番手っ取り早かったのかもしれない。
しかし目の前の幸せそうな二人の姿は、きっとここまで遠回りをしなかったら見られなかった気がする。

彼女は紅の名前はまだ教えないでほしいと言った。
本人の口から本当の名前を知りたいと笑った彼女を見て、この人に弟を任せていいと分かった。

紅の本当に嬉しそうな姿を見て、俺自身もどうしてだか幸せな気分になれた。


「蒼先輩って前々から思ってましたけど、結構策士ですよね」


見習わなければ、と呟く小野さんの顔は真剣そのもので、思わずぷっと吹き出してしまった。
でも確かにここまで全てが上手くいくとは自分自身を思っていなくて、丸く収まったことについて何処か納得いっていない自分自身もいる。

そうか、これが……


「でも、まさか紅に先を越されるとはね」


これが、紅が今まで味わってきた気持ちだったのか。
俺の言葉に首を傾げる彼女に「あとは二人に任せて何処かカフェにでも入りましょうか」と告げたのだった。