「でも私、弟さんと一緒にいられて楽しかったです。デートの時も私を楽しませようとしてくれたり、話しているだけで笑顔になれたり」

「……弟は本当に茅乃さんのことが好きなんだと思います」


そのことだけは間違いなく伝えなければいけないと思った。
俺はベンチから腰を上げると座っている彼女に向かって深く頭を下げた。


「お願いします、弟の口から本当のことを言うまでこのことは黙っておいてもらえませんか。必ず、アイツの口から全部を語らせるので」


ここで彼女の口から伝わってしまえば紅は何も成長しないだろう。この失敗を二度と繰り返さないで欲しいし、なによりも自分の間違いを自分で認めて欲しかったからだ。
頭を上でクスクスと笑い声が聞こえ、顔を上げると彼女が柔らかい表情で微笑んでいた。

紅はきっと彼女の子の笑顔を好きになったんだなと何となく分かった気がする。


「本当に弟さんのことが好きなんですね」


そう言った彼女に俺は釣られるように笑って、そして吐き出した言葉は自分が思っているよりも優しい声色で紡がれた。


「大事な片割れなので」