「なんでお前、それ早く言わなかったんだよ」


震えるような声でそう伝える紅先輩に茅乃さんは戸惑いつつもしっかりとした声で言葉を紡ぐ。


「何か理由があるんだと思ったし、蒼くんが自分で言うまでは自分からは何も言わないでおこうって決めて……」

「……」

「……でも一番の理由は、最初に好きになった蒼くんじゃなくても、私は今の蒼くんに惹かれてたからだと思う」


彼女が顔を真っ赤にして話す内容に私も思わず「え、」と声を漏らしてしまう。

それって、つまり、ということは……


「私も、……君のことが好きです。蒼くんじゃなかったとしても、今まで一緒にいてくれた君とこれからも笑って過ごしたいです」

「……」


茅乃さんの返事はきっと蒼先輩じゃなくてちゃんと紅先輩を伝わったはず。
紅先輩は慌てて蒼先輩と顔を見合わせてどうしていいか分からない表情を見せる。しかし蒼先輩は何も言わずに微笑むとそっとその背中を前に押した。

ぽんっと茅乃さんの前に出された彼は顔を赤らめたまま彼女のことを見つめる。
そんな彼に茅乃さんがまた少しだけこそばゆいように頬を緩めたのだ。


「本当の、名前を聞いてもいい?」


そんな微笑ましい二人を見つめる蒼先輩は二人を結びつけるキューピッドのように思えたのだ。

私はこそこそと三人に歩み寄ると後ろから蒼先輩の背中をツンツンと突き、そして振り返った彼に二人には伝わらないようにこっそりと尋ねる。


「あ、あの……もしかして蒼先輩気付いてました? 茅乃さんが前から自分たちのこと知ってたの」

すると彼は少し意地悪そうな表情をした後、もう一度二人に視線を戻してその目を細めた。


「小野さんは頭がいいですね」


そう言って彼は一週間前のことをゆっくりと私にだけ教えてくれたのだった。