「……なんなんだよ、お前らばっか格好つけやがって」


少し涙ぐんでいるのか、目を腕で隠しながら俯く彼に私は「あの!」と、


「紅先輩! 彼女さんに本当のこと言いましょう! きっと真剣にいえば分かってもらえるはずです!」

「そうだな、いつまでもこの関係を続けていても拉致が明かないだろうし」


私と蒼先輩の説得に紅先輩はしばらくの間黙り込んだ。この間にも彼女さんはお手洗いから戻ってきているだろうし、今も紅先輩のことを探しているはずだ。
好きな人に嘘を吐くって、絶対苦しいし、自分のことがどんどん嫌いになっていってしまう。

私もそうだった。


「……分かったよ、いやーいいんだろ!」

「紅先輩!」

「この代わりに! 振られたら瑞希が俺と付き合えよ!」

「っ、はぁ!? なんでそうなる!?」

「嘘だボケぇ! こっちから願い下げだわ!」


親指を地面に向ける彼は本調子が戻ってきたのか、普段通りに堂々と私のことを侮辱する。
しかし最近は元気のないところばかり見ていたからか、そんな紅先輩の様子に自然と笑みが漏れてしまった。

蒼先輩はそんな彼の姿に呆れたように溜息を吐いた。


「大口叩くのは終わった後にしな。俺もついていってあげるから」

「は? お前きたらややこしくなるだろ」

「紅が分かりやすく説明出来る気がしない」


確かに、今の時点で相当ややこしいことになっているのに馬鹿な紅先輩の説明では更に話がややこしくなってしまう可能性がある。
それにこの件に関して、蒼先輩は全くの関係がないというわけではないので、彼を連れて行くのは得策だと思える。


「じゃ、じゃあ早速行きましょう! 彼女さん、今きっと紅先輩のこと待ってますよ!」