近くにいなくても分かる。紅先輩は本当に彼女のことが好きなんだと。
そしてそれを真剣に聞いている茅乃さんも、きっと紅先輩のことを本当に好きだったんだと。


「そんなことないです、紅先輩に価値がないなんて。絶対無いです!」

「……瑞希」

「確かに紅先輩は馬鹿だし仕事出来ないしすぐに調子乗るし、駄目なところばっかり目立つけど。だけど高野紅って人間は紅先輩しかいないんですよ!?」


もしかしたらなんのフォローにもなってないかもしれない。納得なんてしてもらえないかもしれない。
だけどこの世界に価値のない人間なんていないことを、私は自分で信じていたかった。

そうでないと、ずっと我慢してきた私の中の何かが決壊してしまうように感じてしまったから。


「世界に一人しかいないのに、価値がないなんて言わないでください」

「……」


顔を上げた紅先輩は驚いた表情で私のことを見つめている。私はそんな彼に怯むことなく、強い視線を向けていた。
するとそれを聞いていた蒼先輩も普段のように柔らかく笑うと彼の肩を軽く叩いた。


「そうだな、俺が言いたいのも小野さんと一緒」

「蒼先輩……」

「紅は俺の真似なんかしなくていい。紅らしくいればいいんだよ。それだけでお前の価値は生まれてる」


紅先輩に向けられる蒼先輩の優しい表情は、やっぱりお兄ちゃんの顔だった。


「俺には紅が必要なんだよ」


きっと何よりも彼の言葉が紅先輩にとって力強く感じるはず。ずっと近くで過ごしてきた二人にしか分からない感情があって、すれ違いもあって、だけとそれは深いところで繋がってる。
彼らの本音を、彼らが理解できないわけがないから。