「紅先輩も、笑いたくて笑ってるんじゃないと思います」

「……」

「少しでも、彼女さんの不安が消えるように」


不器用で、単細胞だけど、凄く優しい人だから。


「それに蒼先輩のことを悪く思ってほしくないから、だから必死に取り繕っているんだと思います」


紅先輩が蒼先輩に対して抱えているコンプレックス以上に、多分彼は……

紅先輩は蒼先輩のことを……


「……分かってますよ」

「え?」

「俺に対して対抗意識で彼女と付き合っていることは」


それでも、と続けた蒼先輩の瞳は暗いままだ。


「他人を巻き込むのはやはり人としてどうかしてると思いますけど」

「っ……それは」

「だから兄として、俺は責任を持ちますよ」


蒼先輩はそう言うといつも通りの優しい表情へ戻っていた。


「そもそも、ああなってしまったのも俺の教育が間違ってしまったということもありますし」

「教育……」

「俺に対する鬱憤を溜め込んでしまったことも関係してあるはずなので、責任を持って俺も頭を下げるつもりではいます」

「……」


蒼先輩は何も悪くないはずなのに。


「どうして……そこまで……」


自分以外のことに対しても責任を持てるのか。