「……さん、小野さん」


近くの花壇に隠れながら彼らの姿を追っていた私の肩を誰かがポンポンと叩く。
振り返るとそこに立っていた人物に私は「え!?」と大きく口を開けた。


「蒼せんぱっ……」

「シッ、静かに」


紅たちに聞こえますよ、と私の唇の前に人差し指を置いた蒼先輩にコクリと頷く。
だけどどうして蒼先輩がこんなところに……


「紅たちのことが心配で来てしまったんですが、小野さんはどうして?」

「あ、たまたま友達と遊んでいたら紅先輩を見かけて……それで心配で追いかけてしまいました」

「ふっ、俺と一緒ですね」


そう一瞬微笑んだ彼だったが直ぐに真剣な表情に戻ると目の前の紅先輩に顔を向ける。


「よく人を騙しているのにあんなに笑顔でいられますね」

「え?」

「アイツは自分がしていることがどれだけ悪いことなのか分かってないようです」


そんな軽蔑した視線を向ける彼に私は思わず首を横に振る。
そんなことはない。だってあの日、紅先輩は神経がすり減るほど彼女に本当のことを言うかどうかを本気で悩んでいた。

それに、


『無理だよ、本当のことなんか言えっか』

『で、でもこのままだと……彼女さんはずっと紅先輩のことを蒼先輩だと勘違いしたままですよ?』

『けど言う勇気がねぇよ。どうせ俺なんか、蒼の真似でもやらねぇと誰からも必要とされないんだからよ』


紅先輩は、私たちが思っているような単純な人ではない。彼は彼なりに色々と悩んでいるのだ。