このように、俺は蒼に敵うものは何一つ持ち合わせていない。だからといってアイツになりたいとか微塵も考えたことがない。
今でのこの境遇すら素直に受け入れているし、兄弟の仲も周りが思うほど悪くはない。

しかし、最近生まれた悩みは俺たちの仲を引き裂くのも時間の問題かもしれない。


「……くん、蒼くん?」

「っ……」


呼び慣れない名前に反応すると隣を歩いていた女が俺の顔を心配そうに見上げていた。


「大丈夫? 何度呼びかけても返事がなかったけど」

「……いや、わりぃ」

「?」


茅乃はふと昔のことを思い返していた俺に対して「ん?」の首を傾ける。そんな仕草の一つ一つに年上の女性を感じさせた。

茅乃は兄である蒼と間違えて俺に告白したらしい。同じバイト仲間の小野からすれば「蒼先輩と紅先輩を間違えるなんてありえない!」との話だが。
だけどその間違いは初めてではない。蒼のことをよく知らずに告白してきたやつは学校にもよくいた。俺が蒼ではないと気付くと大変ショックを受けていたが。

つーか、間違えるレベルの好きなら告白なんてしてくるんじゃねぇよ。


「ていうかお前こんな時間まで大丈夫なのかよ。いつも帰り付き合ってっけど」

「大丈夫、家から近いもん。それにバイト先だと仕事があるから全然話せないし」

「……」


年上の癖に、相手を疑うことを知らないらしい。
茅乃は俺が蒼じゃないと気が付いたら、どうするんだろうか。

俺を嫌いになるか、別れるか。そんな未来しか見えない。
この優しさに漬け込んで許してくれるという可能性はありえないこともないが、普通のことではない。

初めは、蒼への当て付けだった。何でも出来るアイツが妬ましくて、少しぐらい悪戯してもいいだろうと茅乃のことを巻き込んだ。
しかし今では蒼のことをバレて欲しくないと願っているし、このまま別れたくもない。


「……じゃあさ、今度の休みデートでもするか?」


そう駅までの道の途中、立ち止まっていうと振り返った彼女の瞳がキラキラと輝いていた。