高野紅、十六歳。
俺の人生は昔から劣等感で埋め尽くされていた。

双子の兄である高野蒼の存在は俺にとっての大きな壁となり、そしていつしかはコンプレックスとなっていた。


『蒼くんは本当に頭がいいですね』

『気遣いも出来て』

『我が校の誇りです、蒼くんは』


親も、先生も、男も女も全員、蒼蒼蒼って……

確かに二人一緒に生まれたはずなのに頭の出来は蒼の方が遥かに良かった。
大人がどうすれば喜ぶのかを把握するのも早かったし、何よりもアイツには俺にはない愛嬌があった。

じゃあせめて運動だけは……と思ったが、蒼は勉強以外にも運動もでき、中学の時は駅伝の県代表選手に選ばれるほど、体育でもいい成績を残していた。

蒼が何か功績を残し、表彰されるたびに双子の俺の存在は少しずつ薄くなって、"高野蒼の弟"という意味でも注目されることもなくなっていった。
ならば違う意味で注目されればいいと思い、次第に俺は真っ向からアイツに立ち向かうのではなく、わざと勉強ができないフリを始めることにした。

そしたら次第に、本当に勉強が出来なくなった。


「紅、このままじゃ何処の高校も受からないよ」


中学三年の時、全く受験勉強をしない俺に向かって蒼が言った。
そんな蒼は県でも特に頭がいいと言われている高校に余裕で入学出来るほどの成績を残していた。


「別にどーでもいいし。つーか高校に行く必要あるか?」

「もし今後、紅が何かをしたいと思った時に高校を卒業してないから出来ないってことが出てくると思う」

「思う、だろ。確定じゃない」


俺が荒れ始めた頃から蒼は昔気にも留めなかった俺に対してネチネチと突っかかってくるようになった。
きっと自分は優秀なのに対して出来ない弟がいることで足を引っ張られているのだろう。ある意味、いい気味だとも思えるが。

しかしその時の蒼は特にねちっこかった。兄貴ヅラをしたいのかどうなのか、事あるごとに勉強しろ勉強しろと煩かった。
そしてある日、俺はそんな彼に向かって冷たく言い放った。


「じゃあよ、お前が俺に勉強教えんのかよ。自分の勉強時間無駄にしてよ」