さっきとは少しだけ空気が違う。なんだろう、今の店長には話し掛けにくい。
そんなこと今まで店長に思ったことがなかった。大人が放つピリッとした緊張感に似ている。

そのまま会話を交わすことなく袋に買ったものを詰めると車へと戻る。
私はエンジンをかける前の店長に「あの！」と、


「お、怒ってますか？」

「何に？」


すぐさま返ってきた返事に言葉が詰まった。


「え、えっと……一応仕事中なのに同級生と話してたから？」

「……まあ、それもあるね」

「うぅ、ごめんなさい」


確かにそれは良くなかったかもしれない。私が太田と話している間に小麦粉以外の材料は全て店長が取ってきてくれたのだから。
しかし店長の言葉からして他にもあるのだろうか。


「太田の言ったことは全部忘れてください。アイツ直ぐにデタラメ言うんで」

「そうなの？」

「そうですよ！ だって私店長のことが好きですし！」


ここだけの誤解はどうしても解いておきたかった。どれだけ太田に言い寄られても私は店長のことが好きで、彼に靡くことはないって。
しかし店長は私の言葉に「そっか」と短く言葉を漏らしただけだった。


「だけどいいんじゃないかな。学生同士の恋愛も。俺みたいなおっさん相手にするよりも」

「……」


凄く今更なことを言われている気がする。そんなこと分かっているし、それでも私は店長が好きだと伝えてきたのに。


「（店長は私と太田が付き合ってもいいのかな）」


全然、なんとも思ってくれないのかな。

店長は「帰るね」と会話に終止符を打つように車のエンジンをかけた。
帰りのドライブは全く楽しくなかった。