「あれ、何で瑞希がここに」

「いやいや、それは私の台詞なんですけど!」


まさか私のことを追ってここまで、と疑いの目を掛けると「ちげぇよ!」と全力で否定される。


「お、俺はたまたまここに買い物にだな!」

「えー、本当?」

「お前、俺に全く信用がないな」

「あるわけないじゃん」


だって私のストーカーであることに間違いないし。しかし本当に偶然らしく、彼はラフなTシャツ姿で小麦粉を手にしていた。
だったらそんなにそわそわしなきゃいいのに、紛らわしい。

私の視線は今度は彼の籠の中に向けられる。生クリームやらチョコレートやら、何やらスイーツを作る材料ばかりのような気がする。
私の視線に気が付いたのか太田が顔を真っ赤にして、


「違うぞ! これは妹がケーキを作ると言ったからだな!」

「いや、私何も言ってないし」

「とにかく違うからな!」


何をそんなに否定しているのだろうか。私は「はぁ」と小さく溜息を漏らす。
店長とドライブデートだと浮かれていたのに一気に地獄に落とされたような気分だ。


「つーかお前、その制服バイト中か?」

「あ、そうだった。こんな奴に構ってる暇なかった」

「おい! こんな奴って言うな!」


太田の横に通り過ぎると桐谷先輩から頼まれていた小麦粉を手にする。
よし、これで私の仕事は終わった。店長の元へと戻ろう。
しかし突然隣から伸びてきた腕に妨げられる。


「ちょっと、離してよ。キモいって」

「っ、お前、好きな奴にキモいって言われる男の気持ち分かんのかよ」

「余裕がないって言ってるの」


正直太田とは小中高全ての学校が同じで、子供の頃はよく話していたから私だって冷たく接したいわけじゃない。
だから昔みたいに友達に戻れたらいいのに、向こうにはその気が全くないのだ。

だから嫌でもこんな態度になる。