「紅先輩、これってどういうことですか?」


そうゆっくりと振り返って聞くと彼がバツの悪そうな表情を浮かべている。


「これ、紅先輩の名前が蒼先輩になってるんですけど何かの間違いですか?」


彼の名前が表示されるところに書かれていたのは彼の双子のお兄さんの名前だった。
まさか、と私はどんどんと自分の表情が青ざめていくのが分かる。


「まさか名前も蒼先輩だって嘘付いてるんじゃないですか!?」

「っ……うるせーな、何処でバレるかわかんねぇだろ」

「それでもこれじゃあ詐欺と一緒ですよ!」

「向こうは気が付いてねぇんだからいいだろ!」


そう声を荒げた彼は「早く返せよ」と私の手からスマホを奪い返した。
紅先輩の彼女である茅乃さんは紅先輩のことを一目惚れした蒼先輩だって思って付き合っている。そのことを知っているからこそ、彼がそんな嘘までついて彼女を騙しているなんて思いたくない。

いや、私はただ紅先輩をそんな人だとは思いたくはなかったのかもしれない。


「こんなの、いつかバレちゃいますよ」

「……その時はその時だろ」

「どうするんですか? 嫌われちゃったりしたら……」

「……」


私はこんなにも紅先輩のことを思って心配しているのに彼はそんな私の言葉には耳も傾けない。蒼先輩が呆れてしまったのも分かる。
だけど紅先輩だってこんなことを望んでいるんじゃないのに……


「瑞希には関係ねーだろ、すっこんでろ」

「……」


そう言って席を外そうとする彼に私は何も言えなくなる。
自分の意見が間違っているのか、正解なのか分からなくなってしまったから。