家に帰ってリビングに入るとご飯を食べ終わった紅がソファーに座りながらテレビを見つめていた。
その後ろ姿に溜息を漏らすと母が不思議そうに尋ねてくる。
「最近一緒に帰って来ないのね。ご飯の時間がバラバラで困るんだけど」
「……ごめん」
「喧嘩してるんなら早めに仲直りしてね」
やはり母親でもこの険悪なムードは分かるのかと荷物を下ろすと母が自分の夕ご飯を作っている間にテレビを見つめる紅の背中に語り掛ける。
「あのさ、」
「あー! このバラエティー面白いよなぁ!」
「……それ、ドラマだけど」
「っ……」
演技下手すぎか。
「まだあの人と付き合ってんの? 俺のフリして」
「……悪いかよ」
「それって楽しいの?」
俺の言葉に振り返った紅の表情は怒りに染まっていて、自分でも言ってはいけない言葉を口にしてしまったことに気が付く。
自分は二人の関係を絶対に間違いだと思っていたのだが、彼にとっては彼女を引き止める手段が俺と容姿が似ていることしかない。
俺の中での間違いは、紅の中では唯一の正解だった。
「お前って本当に嫌なやつだよな」
「……」
風呂入ってくる、とソファーから腰をあげると部屋を出て荒っぽくドアを閉める。
俺はただ紅が悲しい思いをしないように、紅のせいで周りに迷惑がかからないようにって……
「全部、紅のためばっか……」
誰だって構いすぎたらああなる。変な笑いしか生まれてこない。
俺の気持ち、全然アイツには届いていないのか。
「(何が弟のためよ……)」
笑えてくる。