「その後お兄さんの様子はどうですか? たまにお店には来ているようですが」

「……そうですね、一応変装してるみたいなんですけど……バレバレで……」


ようやく緊張も解れてきたのか、俺の隣を歩きながら口数が多くなってきた彼女に安心する。
宇佐美さんは自分の声にコンプレックスがあるらしいが変だとは一度も思ったことはないし、むしろ可愛い声でチャームポイントにしてもいいぐらいなのにと前々から思っていた。

しかしアルバイトを始めたての彼女からは想像が出来ないぐらいここ数週間で成長したように思える。注文を取るだけでも泡を吹き出して倒れそうだったのに、今では団体客にも対応できるようになってきた。
特に子供への接客はここの店の店員の中でも一番と言っても問題がないくらいに……


「その……高野さんと喧嘩中……なんですよね」

「え?」

「あぁ! すみません! 紛らわしい言い方しちゃって!! お、おおお弟さんと!」

「そんなに慌てなくていいですよ、怒ってないですし」


そう言うと彼女は「すみません」とモゴモゴと口を動かした。
宇佐美さんに気を遣わせてしまうほどに俺は哀愁が漏れてしまっていたのだろうか。


「瑞希ちゃんに教えてもらって……あ、勝手に聞いてすみません!」

「いや、小野さんお喋りですから気にせず。というか気を遣わせてしまってすみません」

「……」


お互いに謝ってばっかりだなと思っていると不意に隣から顔を凝視される。
どうかしました?と尋ねると無意識だったのか彼女の顔が赤く染まった。


「や、やっぱり似てるなと思って……間違っちゃうのも分かるかも……」

「あぁ、昔からよく間違えられましたから今更ですよ」