先にシフトを上がった紅を追い掛ける気力なく更衣室から出た俺は思わず強めにドアを閉めてしまう。
するとたまたまその場に居合わせた宇佐美さんがその音に吃驚して飛び上がったのを見て「すみません」と焦り気味に謝る。


「だ、誰もいないかと思って」

「……」


マスクをした彼女が首を横に振る。普段ならまだ話してくれるのにそれをしてくれないところ、相当俺が怖い顔をしていたのだろう。自分が紅と同じ顔であることを忘れかけていた。
宇佐美さんは男性が苦手で未だ紅や桐谷さんに対しては怯えているが俺には少しずつ警戒が取れてきたように思えていたのに、これじゃ振り出しに戻ってしまう。

ペコペコと頭を下げて休憩室を出て行こうとする彼女を「待って」と引き留める。


「一人で帰るんですか? 外暗いし危ないですよ」

「……あ、だ……大丈夫……れす」

「(あ、噛んだ……)」

「(噛んじゃった……)」


マスクの上からでも顔を真っ青にしているのが分かって思わず笑みを浮かべてしまう。
すると急に笑った俺にどうしたらいいのか分からないと慌てる彼女に優しく微笑みかけた。


「駅まで一緒に帰りましょう。いえ、危ないので送らせてください」

「っ……そ、そんな……」

「行きましょう」


そう言って休憩室を出ると彼女も俺の後を追って外に出た。