しかし一つ問題があるとすれば……


「けどよぉ、俺が蒼じゃないって知ったらアイツめちゃくちゃ悲しむんじゃね」


紅にしては普段よりも口が上手いということだ。


「で、ですけど……紅先輩にも良くないような。彼女は紅先輩のこと蒼先輩だと思ってるわけだし、紅先輩が蒼先輩のような振る舞いを出来るかどうか……」

「なんだその言い方は! 俺にだってやるときはやるんだよ!」

「空回りする未来しか見えないので恐ろしいです。大人しく別れてください、お願いします」

「お前なぁ……」


蒼も何とか言ってくれ、と肩に掛けられた腕を素早く振り払うと彼が「え?」と目を丸くする。
俺は真剣な表情で紅のことを見つめると最後の質問をした。


「本当のことを言って、別れる気は無いってことでいい?」

「……俺はそうしたくないって言ってんだろうが」

「……」


彼の答えを聞いて一つ息を漏らすと自分の中にあるスイッチを入れた。


「あっそ、じゃあ勝手にしたらいいんじゃないですか。俺が口を出すだけ無駄でしょうし」

「っ……じゃあ勝手にさせてもらうっつの!」


紅は俺に向かって啖呵を切ると荷物を持って休憩室を出て行った。後から面倒なことをなったって絶対に力なんて貸してあげない。
目の前で情けない兄弟喧嘩を見せ付けられた小野さんは一人あわあわと落ち着きのない様子だったが仕方がないだろう。いつもよりもキツ目に怒ってしまったし。

すると休憩室をドアが開き、彼が帰ってきたのかと思ったら顔を出したのは困惑した表情の店長だった。


「何かあった? 今すっごい怖い顔の高野くんとすれ違ったんだけど」

「どうしたもこうしたもないですよ! 店長〜!」

「うわっ、どうしたの小野さん」