「蒼先輩がこんなに悩んでるの初めて見ました」

「自分のことじゃないからです。弟のことで周りに迷惑をかけるのはどうしても避けたいんです。元から紅の性格上、他人に不愉快な気持ちにさせてしまうことが多いので少しでもそれを減らしたくて」


きっとあそこで紅が告白を断っていたら、あの女性は傷つかずに済んだはずだ。
紅が常識を持って接していたら、なんて今更なのかもしれないが。


「蒼先輩って凄く紅先輩のこと好きですよね」

「え?」


その言葉に顔を上げると小野さんは「ね?」と顔を綻ばせてこちらを見つめた。


「だって紅先輩が人から嫌われないように頑張ってるんですもん」

「……そう、ですね」

「そうですよ!」


本当は、自分の片割れのような存在と紅が周りから非難されると自分も責められているような気持ちになるからだ。だけど今輝いた目をしている彼女を前にしてその本音を言うのは気が引ける。
小野さんは俺のことを完璧な人間だと思っているのかもしれないが、何処にでもいる争いごとが嫌いな男なのだ。


「紅先輩だって事情を知ったらきっと分かってくれます」

「……」


本当、そう言う男だといいけど。

ガチャリと音がして更衣室から学校の制服に着替えた紅が出てくる。
すると俺たち二人の顔を見て何故がニンマリと笑みを浮かべる。


「二人ともなんだ? あ、もしかしてあれ見ちゃったのか!」

「予想以上の浮かれ具合で引くんですけど」

「あぁ!? 何がだよ!」

「本当にそういうところ直した方がいいよ」


一人事情が分かっていない紅の頭にはてなマークが見える。しかしこのままではことが大きくなるために残念だが彼に現実を突きつけようと思う。


「紅、その告白のことだけど」

「お! もしかして蒼、俺に先越されて悔しいのか? そうなんだろ?」

「……」

「蒼先輩、抑えてください」


顔めちゃ怖いです、と小野さんに指摘されてコホンも一度咳き込むともう一度彼と向き合った。


「告白は多分間違いだと思うよ」

「は? 間違い?」

「俺、彼女と店に来る前に会ったんだ。多分そこで俺のことを知ってお店に来たんだと思う。で、俺と間違えて紅に告白してしまった」

「……」