これ以上弟に対して手は焼きたくないんだけど、まさか高校生にまでなってこんな大波乱が待ち受けているなんて誰が想像していただろうか。


「え、それってつまりあの女性は蒼先輩と紅先輩を間違えているってことですか!?」


バイト終わり、着替えが終わった小野さんは紅の準備が終わるのを待っている俺に対して驚きの表情を隠せずにいた。


「そうですね、おそらく。今日会ったばかり、ということはさっき俺が助けたことを言っていると思いますし」

「……それ、紅先輩は」

「知らないかと。勝手に告白されて浮かれて承諾してしまったんでしょう。少し考えれば分かることなのに、あの馬鹿は……」


事の始まりは俺が今日の夕方に駅のホームで出会った女性、牧田茅乃さんが弟である紅に告白したことだった。
彼女はどうやら俺と紅の見分けが付かなかったらしく、間違えて勢いで告白してしまったみたいだ。

別に俺が彼女と付き合いたかったというわけでもなく、自分なら彼女の告白を丁重に断ることが出来たのだが、あの馬鹿はそんなことも知らずに彼女との交際をスタートさせてしまった。
いくら告白されたからって会ったこともない人間に不信感やら疑問を持たないのか、アイツは。


「それ、あの時言ったらよかったんじゃないですか?」

「それが、どうやら告白するのが目的だったみたいで紅が返事した後は連絡先の書かれたメモを渡して帰ってしまったようです」

「……まぁ、公開告白でその場には居づらかったんでしょうね」


椅子に座り、テーブルに肘を付いている俺を見て小野さんが同情してくれているかのような表情を浮かべる。
彼女はまだこの店で働き始めて三か月ほどしか経っていないが馴染むのが早く、紅についてもよく知ってくれている。だからこそ彼に手を焼いている俺を見て心配してくれているのだろう。