「蒼先輩、凄い女の人からモテるじゃないですかぁ。でもそれで嫌な思いしてること多いから女の人と関わるの嫌なんじゃないかなって」

「……心配してくださってありがとうございます。だけど女性恐怖症とかそんなんじゃないので安心してください。それに女性が苦手だったら今こうして小野さんとお話をしてないですよね」

「で、ですよね! それに同じ店に男性恐怖症と女性恐怖症がいたら大問題ですよ」


それはきっと宇佐美さんのことだろう。彼女も今はかなり改善されてきたが未だに俺たちの前だと挙動不審なところがある。
そろそろ挨拶しに行くか、とトレーを持つと小野さんが「あれ?」と声を上げたのでフロアの方を振り返る。

すると目に入ってきたのは紅のことを見てその場に立ち尽くす先程の女性の姿だった。


「(なんか嫌な気がする……)」


女性は紅のことを引き止めると彼は俺が教え込んだ接客スマイルを浮かべた。


「はい、オーダーでしょうか?」

「さっきはありがとうございました。え、駅で」

「(駅で?)……は、はい」


きっと顔が一緒である俺と紅を間違えているのは分かった。
それはそうだ。このお店では俺たちが双子であることは常識だが、他の人間はそれを知らない。

そして俺の嫌な気は的中する。


「あの……今日会ったばかりなのにこんなことを言うのは変かもしれないんですけど」


隣に立っていた小野さんが興奮からか俺の制服をキュッと引っ張った。
女性は俺と勘違いした紅に向かって顔を赤らめて言った。


「一目惚れしました! 好きです、付き合ってください!」


店中の注目が二人に集まって、小野さんが「嘘〜!」と声を上げた。


「こ、紅先輩告白されてる! 私生告白初めて見ました!」

「(どうしよう、この状況……)」


取り敢えず紅が勘違いに気が付いて告白を断ってくれたらいいのだけど……

が、しかし。


「え、俺? いいけど……」


は?


「(ふざけんな……)」


いくら楽観主義でも楽しめないものはある。