「紅、またお皿割ったんだって? 店長にちゃんと謝ったのか?」

「ギクッ……何故それを」

「何故それを、じゃないだろ。何度注意したら済むんだよ」

「はぁー、また説教かよ。ウザいって」


するりと腕を抜くと逃げるように去っていく紅。
それを見て溜息を吐くと隣から小野さんが困った顔で近付いてくる。


「奥さん、大変な息子を持って可哀想ですねー」

「……それ、なんのキャラですか?」

「あんな馬鹿息子放って僕とランデブーしません?」

「店長はいいんですか?」

「だ、駄目です!」


店長にゾッコン気味の小野さんはそう言うと紅と同じで逃げていってしまった。
今会っただけでも何とも個性が強いファミレスであるがために、長い間働いていてもそう飽きはこない。

出来れば紅も一緒に高校の卒業までここで働きたいと思っているけれど。


「(意外と楽観主義な面があるのかもしれない……)」


徐々に外が暗くなるとお客さんが増えていき、仕事も忙しくなってきた。
紅の仕事を見張りながら働いていると店の入り口に見覚えのある女性が立っているのが見えた。

駅であった女性が約束通り店に来てくれたらしい。


「蒼先輩? どうかしました?」

「いや、知り合いがいましたから」


俺の背中から彼女のことを見た小野さんが「え!?」と、


「か、かかか彼女ですか!?」

「ん? 違いますよ、俺彼女いません」

「知ってます! だけど蒼先輩ってあんまり女の人と仲良くしてるところ見ないから知り合いって聞いて吃驚しちゃって」

「……そうですか?」


彼女は「そうですよー」と口元を膨らませた。