十分遅れでバイト先について急いで制服に着替えてフロアに入る。
その途中で店長と鉢合わせて「すみません」と頭を下げた。
「委員会が伸びてしまって」
「ううん、今日はお客さん少なかったし事前に遅れるかもしれないって連絡くれていたから大丈夫だよ」
「紅は何か迷惑かけませんでしたか?」
「あー……」
店長の歯切れが悪くなったのを見て何かをやらかしたのが分かった。きっとこの反応からするとお皿を割ったとか、そういうのだろう。
お皿を割るのは日常的茶飯事だから、という言い訳は効かない。
「役立たずなのに雇ってくれてありがとうございます」
「いやいや、頑張りは伝わってるからね」
と言ってこのままお店に迷惑を掛け続けるのであればやめ時を考えなくてはいけない。
愛すべき弟に厳しい目を向けるのは兄の役目であり、それはいついかなる時も変わらない。
双子で履歴書を出しに来た時は驚いていた店長も今では当たり前のように俺たちのことを受け止めている。
彼は人を理解することに長けている人間であるとこれまでの行いで分かっていたので紅についても任せられる部分が多いのだ。
今日は紅と小野さんが同じシフトに入っているそうだ。
小野さんは俺たちの一つ下で有名な流谷高校に通っている女の子だ。紅に精神年齢が近く、よく二人で喧嘩しているのを見る。
だけど実は彼女とはとても頭がいいと俺は思っている。
地の頭の良さというか、その場の空気を読むのが上手いのだ。
「あ、蒼先輩。おはようございます」
「お疲れさまです。忙しくなかったですか?」
「大丈夫ですよー。紅先輩もなんだかんだ役に立ってますし」
「それは何よりですね」
取り敢えずテーブルの片付けからするか、とフロアに入ろうとすると後ろから腕を回された。
「よ! 遅かったじゃねぇか、蒼」
「……紅」
この俺にそっくりな顔で得意げな表情を浮かべているのが俺の弟である高野紅である。