「これ、俺が働いてるファミレスの割引クーポンです。よかったら」

「え、そんな! 助けてもらった上に、貰えません!」

「気にしないでください。折角だし、これも何かの縁だと思うので」


よかったら来てください、と説得すると彼女はおとなしくその紙を貰ってくれた。
暫くして電車が来たので乗り込むとドア付近で並んで立って目的地へと向かっていた。


「え、二年生なの? 大人っぽいから三年生かと思った」


吃驚した顔をする彼女に笑いが漏れる。


「よく言われます。だけど受験は来年からですね」


彼女は先ほどの駅の近くの大学に通う学生らしく、どうやら俺のバイト先の近くに実家があるらしい。
髪の毛を茶色く染めた大人っぽい雰囲気からなんとなく歳上だろうとは思っていたが、言動が少し幼いようにも思える。

彼女は俺から貰ったファミレスのクーポン券を眺めながら、


「あの、今日もバイトあるんですよね」

「あ、はい。夜まで入ってます」

「……一回家に帰ったら友達と行っていいですか?」

「是非、お待ちしてます」


返事をすると彼女が嬉しそうに顔を綻ばせた。どうやら割引券が相当嬉しかったらしい。
自分のバイト先に友人を呼ぶのもどうかと思って誰にも渡すことが出来なかったから丁度良かったと思う。

駅までの間お互いのことを語り合っているといつのまにか駅に着いてしまった。


「本当にありがとうございました。時間大丈夫ですか?」

「気にしないでください」


一度は見ないふりをしそうになったことを思い出して罪悪感で胸が締め付けられる。
彼女に別れを告げると足早にバイト先へと向かった。