両親曰く、自分と弟の紅は子供の頃から性格が真逆だったらしい。
外で遊ぶのが好きだった紅に対して、家で読書をするのが好きだった俺は実のところ彼の性格や周りを巻き込んでいくスタイルが羨ましく思えた時もあった。

しかしその反対に危なっかしいところも多く、そういうところは兄の俺がフォローしなくてはいけないと思っていた。

母親から紅の受験を手伝ってほしいと言われ、何をしでかすか分からない紅を見張るために同じ学校に入れるまで偏差値を上げることに尽力した。
結果紅は俺と同じ高校に合格したが、俺は自分の偏差値よりも下の高校に入ることになった。

だが折角同じ高校に入ったのに紅はテストで赤点を取ってばっかりだ。
正直のところ、俺の受験期間を犠牲にした分だけは勉強してほしいところ。

流石に大学は別れてしまうために少しでも紅の性格がマシになるように社会勉強も兼ねて始めたアルバイトがファミレスの店員だった。
もう一年以上続けているので彼もなかなか様になってきたがそれでもたまに粗が目立つ。

店長に「蒼くんは本当にしっかりしているね」と言われるが、あんな弟がいればしっかりするのも仕方がないと思う。

そんなこんなで何が言いたいかというと、何だかんだ紅は俺の可愛い弟であり、だからこそ独り立ちさせるタイミングが分からなくなっているのだ。



駅の改札を通った時、既に電車の出発まで一分を切っていた。


「(これ逃したら遅刻確定だな……)」


猛スピードでホームへの階段を駆け上がる。
高校の委員会の集まりが思っていたよりも長引いてしまい、シフトの時間に間に合いそうにないのだ。

ホームに定着している電車が見えてホッとした瞬間に目の前の女性が隣を走っていた男性の肩にぶつかって鞄を地面に落としてしまった。
ばら撒かれるプリントや転がる水筒に一度は怯んだが男性はそのまま何事もなかったかのように走り去って電車の中に駆け込んだ。

俺も慌てていたため落ちたものを必死に拾っている彼女を横目にその隣を通り過ぎていく。