桐谷先輩!と休憩室に乗り込むと仕事に戻ろうとしていた彼と鉢合わせした。


「またぁ? やんないよ、俺」

「これを見てもまだそんなことが言えますか?」


呆れた表情の桐谷先輩に見せつけたのは花宮さんから送られてきた画像。その写真には桐谷先輩の姿が映っていた。

その隣にいる背が低い彼女の姿も。

無言で私のスマホを奪い取ろうとする彼に素早く反応して避ける。


「花宮か」

「正直これが脅しになるのかはよく分かんないんですけど、ばら撒かれたくなかったらフロアに出て働いてください」

「……」


桐谷先輩は酷くご自身の彼女さんを隠す傾向にある。だからこの写真を他の人に見られたくないはず。
なんでそこまで嫌がるのかは分からないけれど、それを知っているから花宮さんは街で見かけた桐谷先輩とその彼女が手を繋いで歩いているところを激写したんだろう。

もはや花宮さんが持っていない情報とは何があるんだろう。


「……そんなんで俺が動くと思ってんの?」

「へ?」


桐谷先輩から出た言葉は予想を裏切るものだった。


「勝手にすれば? なんか花宮に踊らされてんの馬鹿らしくなってきた」

「え、えぇっ!?」

「別に彼女見られたところでどうにかなるわけじゃないし」


この間まであれだけ他の人に恋人を見られるのを嫌がっていた人と同じ人とは思えない発言に目が丸くなる。多分あの拒否反応を見るに完全にOKというわけじゃないけど、花宮さんに屈するのが死ぬほど嫌なのだろう。
この画像を手に入れた時絶対に勝ったと思ったのに。このままじゃ断わられてしまう。私は休憩室から出ていこうとする桐谷先輩の背中に体当たりする。


「っ、いてぇ! 離せ!」

「待ってください!」

「はぁ? 話すことはもうないんだけ」


ど、とこちらを振り返った瞬間に私は自分のスマホで桐谷先輩の顔面の写真を撮った。
呆気に取られている彼からふふんと鼻を鳴らして距離を離した。