で、当たり前のように断られた。


「どーしてもですか!?」

「どうしても?」

「どうしても!?」

「しつこい」


ギロッと睨み付けられた私は思わずその場に立ちすくんでしまう。だけど店長からのお願いだから何としても桐谷先輩にはフロアに出てもらわないと困るのだ。


「ほら、私としーちゃんだけじゃまだ心配だし。店長が戻ってくるまででいいので」

「ていうか何で俺? 他でもいいだろ」

「厨房でフロア経験あるの桐谷先輩だけなんですよ」

「……」


聞いたんだ?、と彼が顔をしかめたのを見て「もしかして言っちゃいけなかったのかな」と自分の失態に気が付く。元々桐谷先輩は人の前に出るのを嫌がる人だからフロア担当も嫌だったのかもしれない。
どうにか桐谷先輩をフロアに出すにはそれに対応するほどの対価が必要だと分かる。だけど桐谷先輩が喜ぶことって一体何なんだろう。

私じゃお金でどうにか出来る話でもなさそうだし……


「ていうことで助けてください花宮さん!」


私は責任を放棄し、電話で花宮さんに助けを求めた。


《そっか、私今遠出しててごめんね》

「いや、花宮さんが悪いわけではないので」

《桐谷をフロアに出すには、ね。アイツのせいで当時かなり面倒なことになったからちょっと大変かも》

「そうなんですか?」


そっか、花宮さんは前からいるから桐谷先輩がフロアに立っていたことも知っているんだ。
あれ、でもそうなると店長って二人がバイトを始めたよりも後にこのお店に来たってこと? ずっとここで働いているんだとばかり思っていた。

つまり店長の前にも店長がいる、ってことだよね。