「ありがとう。取り敢えず今日にでも業者さんを呼ぶよ」

「そうしてください。前々からちょっと危ないって思ってたんで」

「おいおっさん! 助けてやったんだから給料上げろよな!」

「普段高野くんが割ってる皿の数を考えるとプラマイゼロな気もするけど」


桐谷先輩たちが来て、今までの二人きりの空間は特別だったんだと実感する。
暗闇の中で少しだけ見えたのは店長の本音だった。

きっと振られても可笑しくなかった。だけどそうしなかったのはそれもまた彼の優しさだ。


「(狡い人……)」


本当に。


「店長」


後ろからそう呼び掛けると彼がこちらを振り返る。
私は近付くと彼の首元のネクタイを引っ張ってその驚いた顔に近付いた。

彼の瞳の中に私の顔を映っている・


「私、絶対に店長のこと諦めませんから! いつか店長の口から、『私のことが好きだ』って言われるまで絶対に諦めません!」


それがいつになろうと、私には貴方しかいないの。


「で、ことでこれからもよろしくお願いします」

「……」


ポカンと口が開きっぱなしの彼を笑うと私は彼らの間を抜けて休憩室に戻って行く。

どれだけラインを引かれたって、どれだけ距離を開けられたって。
私はそれを飛び越えるし、開けられた分だけ近付いてやる。

そこまでしないときっと大人な彼の隣には並べない。

今日見せてくれたあの少しの本音に、もっと近付きたいって思えたから。

絶対に負けたくない。


『……凄く、大事な子』


その意味が好きに変わるまで、私は絶対に店長のことを諦めない。