「実はこの扉の建て付けが悪くてこっちからじゃ開けられなくなったんだ。そっちから押してドアを開けられないかな」

「マジか……確かに開かないですけど」


ドアを強く蹴っているのか、ドンッドンッと大きな音が部屋に響く。
その一つ一つに体を震わせていると店長が私を安心させるようにそっと手を伸ばした。

しかしその手が私に触れる前に桐谷先輩が話し出す。


「駄目です、開きません」

「こっちはドアノブが外れちゃって開ける術がなくて……」

「多分ぶち抜くしかないと思います。もうこのドア壊しちゃっても大丈夫ですか?」

「う、うん、後で修理に出す予定だし」


するとドアの向こうで「分かりました」と桐谷先輩が頷いた。


「ちょっと馬鹿力持ってくるので待っててください」


そう言うと彼はドアの前から離れて何処かに行ってしまった。
隣の店長の表情を盗み見ると、取り敢えずここから脱出出来るようだと安心したようにはぁと息を吐いた。

私を落ち着かせようと伸ばされた手は私に触れることなく、地面に落ちている。

暫くして桐谷先輩ともう一人誰かの声が聞こえてくる。


「いいから、お前ぐらいしか馬鹿みたいに力強いやついないだろ」

「はぁ? ていうか店長と瑞希が閉じ込められてるとかマジかよ」


かったりぃ、と面倒臭そうに息を吐くその声を聞いて私は店長と顔を合わせる。


「この声って……」

「紅先輩?」


馬鹿力って紅先輩のこと!?