そして、


「一度ちゃんと言うべきだと思ったけど、俺は君に嫌われたくないし、君を傷付けたくないんだ」

「店長が嫌いになることなんてないですよ」

「それは……小野さんは俺を知らないから」


じゃあ教えてくださいよ。店長のこと、全部。私に教えて。
それでも私が店長のことを嫌いにならなかったら、私の気持ちを本気にしてくれる?


「結局、店長は私のことどう思ってるんですか?」

「……凄く、大事な子」

「……それって」


なんて、残酷な言葉なんだろう。


「おい、小野いんのか?」

「「っ……」」


突然ドアの向こうから聞こえてきたその声に私たち二人は慌てて距離を離す。
今までお互いにしてきたことについて我に返ると死にたくなるくらい恥ずかしくなった。

しかし今はドアの前の声の方が重要だ。

この声は……


「桐谷、先輩……」

「やっぱりいんのか。お前時間掛かりすぎだから」


やっと誰かが来てくれたという安心感から緊張の糸が切れ、何も話せなくなった私の代わりに店長が返事をする。


「ごめん、桐谷くん。頼みがあるんだけど」

「その声……店長もいるんですか?」


桐谷先輩は彼の声に少し事態が妙であることに気が付き始めた。