「可愛いって……」


店長のそういう優しさって、たまに凄く酷だなと感じるときがある。


「店長の可愛いって、好きってことですか?」


真っ暗闇の中、ポツリと落としたその疑問はしっかりと確実に彼の耳に届いたと思う。
彼は突然の問い掛けに「え?」と首を傾げる。

私はもう、店長に子供扱いしてほしくない。


「店長って人を好きになったことありますか?」

「どうしたの急に」

「答えてください」


私、そういえば店長のこと何も知らない。
どこの大学を卒業したのかとか、この店の店長になる前はどんなことをしていたのか、子供の頃はどうだったのか、学生の頃はどんな生徒だったのか。

どんな恋愛をしてきたのか。


「……それは、あるけど」

「その好きは、いつか私に向けてくれる時が来ますか?」

「……」


さっきまでゼロに近かった二人の距離が、一気に離れていくのが分かった。


「……多分その時には小野さんはもう俺のこと好きじゃないんじゃないかな」

「っ……そんなことないです! ずっと好きです!」


彼の言葉を否定するように声を上げても、店長の表情は変わらない。


「未来のことはどうなるか俺にも分からないよ。けどいつか小野さんに向ける好きがあるんだとすれば、きっとそれは小野さんの言ってる好きと一緒だと思う」

「……」

「だけど今は仕事も忙しいし、だけどみんなのお陰で楽しいからあんまりそういうこと考えられないんだよ」

「……どういうことですか?」


私の問いかけに、店長は背中を撫でていた手を離してしまった。


「俺は暫くの間、誰かのことを好きになったり付き合ったりはしない予定なんだ」

「……」


自分の話のはずなのに、随分と店長は他人事のように話す。